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沖縄防衛局の公有水面埋立変更承認申請に対する県知事への意見書提出

2020年09月13日

沖縄環境ネットワークは去る2020年9月11日、沖縄防衛局の公有水面埋立変更承認申請について、県知事宛に意見書を提出いたしました。
以下に意見書の内容を紹介します。

****************************************

2020年9月11日


沖縄県知事玉城デニー殿

沖縄環境ネットワーク


世話人
大城順子、川満昭広、後藤哲志、桜井国俊
砂川かおり、鷲見幸子、徳森りま、長田英己
花輪伸一、真喜志好一、吉嶺繁子、鷲尾眞由美



沖縄防衛局の「普天間飛行場代替施設建設事業公有水面埋立変更承認申請書」について(意見)


 私たち沖縄環境ネットワークは、1997年に発足した市民団体で、以後一貫して沖縄の貴重な自然を守るための活動を展開してきました。この度の「普天間飛行場代替施設建設事業公有水面埋立変更承認申請書」の告示・縦覧を踏まえ、沖縄防衛局の公有水面埋立変更承認申請について、私たちの意見を以下に提出させて頂きます。
玉城知事には、公有水面埋立法に基づき、県民の海を守る権限と責務があります。今回、沖縄防衛局は、同法第13条ノ2(出願事項の変更)第1項の規定に基づき出願事項の変更を申請しましたが、知事には、同条第2項の規定に基づき、同法第4条第1項の規定を準用して審査し、許可・不許可を決定することが求められます。
同法第4条第1項は、知事が出願事項の変更を承認するための条件として第1号~第6号を定めていますが、その中で第2号は、その埋立が環境保全につき十分に配慮したものであること、そして第3号は、埋立地の用途が土地利用又は環境保全に関する国又は地方公共団体の法律に基づく計画に違背しないことを求めています。
この間、私たちは、主として環境保全の観点から「変更承認申請書」や防衛局が設置した環境監視等委員会、技術検討会の議事録等を読み込んで参りましたが、申請書に含まれる「環境保全に関し講じる措置を記載した図書」は「今回の計画変更が環境に及ぼす影響の程度は、いずれの項目についても変更前と比べて同程度又はそれ以下と考えられます」と結論していますが、全くもって納得しがたい結論であり、今回の沖縄防衛局の公有水面埋立変更承認申請は、明らかに上記の公有水面埋立法第4条第1項第2号及び第3号の条件を満たしていないと言わざるを得ません。
以下に述べます私たちの意見なども参考にして頂きながら、環境保全の観点から、この変更承認申請は認められないと明確に断定し、広く県民・国民に不許可の理由を明示して頂きますようお願い申し上げます。

意見その1:先行埋立による水の濁りについて


普天間基地を5ないし7年のうちに閉鎖するというSACO合意の実現が大幅に遅れ、普天間基地の移設先として現在建設を進めている辺野古新基地も軟弱地盤の問題等もあって当初計画から大幅に遅れています。このため沖縄防衛局は様々な工期短縮策を検討していますが、その多くは環境を犠牲にしたものです。そうした工期短縮策の一つとして検討されているものに、埋立区域③-5の先行埋立があります。まずはこの先行埋立による水の濁りの問題について検討することとします。
先行埋立とは、C2護岸の地盤改良工事が終了し、その後、ケーソン護岸として最終的にC2護岸を閉合する工事が開始されるまでの間に、トレミー船を利用して海上から埋立区域③-5を埋め立てるもので、薄層埋立とも呼ばれています。水深42mから水深7mの部分まで土砂が投入されます。この工事による水の濁りが周辺のサンゴ類生育範囲に悪影響を及ぼすのではないかと懸念されるのです。そこでこの点について沖縄防衛局が作成した各種資料を比較検討しました。
第3回技術検討会資料p.49-50の表5.2-1全体工程表でも、また今回沖縄防衛局が提出した「普天間飛行場代替施設建設事業公有水面埋立変更承認申請書」の添付図書-1設計概要説明書のp.132の表3.1.1(1)「本埋立に関する工事の工程表【変更後】」においても、埋立区域③-5の先行埋立は4年次の10月から5年次の8月となっています。そして環境監視等委員会第23回委員会に提出された(資料3:計画変更に伴う環境影響について)の概要の6頁は、(5年次7ヶ月目:汚濁防止膜追加展張のケースのシミュレーション結果と環境保全図書(変更前)のシミュレーション結果との比較結果)を示したとしています。この時期は、埋立区域③-5の先行埋立の時期であり、先行埋立がもたらす水の濁りを検討するために、沖縄防衛局がピンポイントでこの時期のシミュレーションを行ったものと思われます。
資料3の概要は次のように述べています。  
5年次4ヶ月目から5年次7ヶ月目は、濁りの影響を低減させるため、環境保全措置として、ケーソン護岸部の未閉合区間に汚濁防止膜を海面から海底まで追加展張する。
シミュレーションにおいては、変更前における予測と同様に、追加展張した汚濁防止膜の外側に一定程度の濁りが漏れ出すことを想定した予測を行うこととし、汚濁防止膜による濁りの除去率についても、変更前と同じく、「港湾工事における濁り影響予測の手引き」(平成16年4月、 国土交通省港湾局)に示された事例を踏まえ、50%として実施。
その結果、2mg/Lを上回る濁り(SS)の範囲は、すべての層で汚濁防止膜の内側にとどまり、サンゴ分布域には及ばないものと予測。
 一方、今回沖縄防衛局が提出した「普天間飛行場代替施設建設事業公有水面埋立変更承認申請書」の添付図書-4環境保全に関し講じる措置を記載した図書は、次のように説明しています。同図書の2-6-212~213頁(4)変更後における工事の実施に伴う水の濁り(海域)への影響の評価です。
(ヵ)5年次7ヶ月目において、夏季のSS2mg/L以上の分布範囲はいずれの層においても変更前に比べて小さくなっています。冬季のSS2mg/L以上の分布範囲は、全層において変更前・変更後ともに工事箇所のごく近傍に限られています。
環境監視等委員会第23回委員会に提出された資料3を読んでいた者としては実に違和感のある評価でした。実は資料3の概要は、それ自体、納得しがたいものです。なぜなら資料3の13頁の表3.7のシミュレーション結果(夏季:汚濁防止膜を海面から海底まで追加展張した場合)を見ますと、12頁の表3.6のシミュレーション結果(夏季:汚濁防止膜を海面から海底まで追加展張しなかった場合)にくらべ、濁りの広がりがかなり抑えられているものの、第1層~第4層の2mg/Lの青線のコンターはいずれもケーソン護岸部の未閉合区間に張られた汚濁防止膜の外側に張り出しており、上記のすべての層で汚濁防止膜の内側にとどまりという記述と明らかに矛盾しているからです。
それが今回の変更後の評価では、上に見ましたように、いずれの層においても変更前に比べて小さくなっていますとなってしまったのです。資料3では2mg/Lの青線のコンターが明らかに汚濁防止膜の外側に広がっているのに、それをすべての層で汚濁防止膜の内側にとどまりと嘘をついていたのをごまかしたともとれます。変更前に比べてというのも実に曲者です。工程を大幅変更していますので、変更前のどの時点が比較の対象として適切なのか不明だからです。今回の添付図書-4環境保全に関し講じる措置を記載した図書の2-6-184頁~2-6-187頁のシミュレーション結果も、資料3と同様に第1層~第4層の2mg/Lの青線のコンターがケーソン護岸部の未閉合区間に張られた汚濁防止膜の外側に張り出すことを示してしているのですが、添付図書-4はその点について口を噤んでいます。シミュレーション結果を正確に伝えない図書作成は姑息としか言いようがありません。工事全体の遅れを取り返すために無理な工期短縮を進めようとしていることがこのように事実を捻じ曲げる表現につながったと判断します。
このように先行埋立による水の濁りについて沖縄防衛局が行った環境影響評価は実に不透明であり、納得しがたいものであると言わざるを得ません。この件について、環境監視等委員会が適切なチェック機能を果たせていないのも残念です。
なお、「普天間飛行場代替施設建設事業公有水面埋立変更承認申請書」の添付図書-4環境保全に関し講じる措置を記載した図書2-6-10頁は、「5年次7ケ月目については、 最終の埋立区域が閉鎖水域にならないため、開口部から外側に濁りが広がる予測となりました。この濁りの影響を低減させるため、環境保全措置として汚濁防止膜を追加展張する計画としました。追加展張する時期は、5年次4ケ月目から薄層埋立が終了する5年次8ケ月までを想定し、設置する汚濁防止膜は延長約240mの固定式垂下型で、カーテンを海底まで到達させ、濁りの拡散を防止する計画です。」としています。先行埋立は、4年次10ケ月目から5年次8ケ月目まで施工されるのに、何故、汚濁防止膜の追加展張が5年次4ケ月目から5年次8ケ月目までだけなのか、全く説明がありません。また先行埋立施工の際の開口部は、731m(C2、 C3)ほどあり、240mの汚濁防止膜はあまりに短いと言わざるを得ません。さらに先行埋立施工時には、C2護岸は未着工で水深7.5~16.5mであり、C3護岸は基礎工上部(水深7.5~16.5m)の上に施工されることとなります。現在、設置されているような海面下7mまでのカーテンでは汚濁は防止できません。
 以上に指摘した先行埋立による水の濁りの影響予測が不適切であることは、他にも指摘した不適切な環境影響予測の諸問題と相俟って、「変更計画においては環境保全への配慮が適切になされている」という沖縄防衛局の主張を納得しがたいものとしています。

意見その2:ジュゴンの保護について


 絶滅危惧種である沖縄のジュゴンは、ノグチゲラ、ヤンバルクイナとともに沖縄が保護し後世に伝えていかねばならない重要な生き物です。辺野古新基地の建設予定地となっている辺野古・大浦湾は生物多様性に富む海であり、新基地の建設と使用がこの貴重な環境に及ぼす影響については、丁寧な調査・予測・評価がなされる必要があります。辺野古・大浦湾には、ジュゴンの餌場となる海草藻場が広く分布していることから、中でも重要なのがジュゴンの生息に及ぼす影響の評価です。
沖縄防衛局は2013年に提出された環境保全図書(変更前)で新基地の建設と使用がジュゴンの生息に及ぼす影響について評価を行い、建設が及ぼす影響については「工事の実施によりジュゴンに及ぼす影響は、最小限にとどめるよう十分に配慮されているものと考えられることから、環境保全の基準又は目標との整合は図られるものと評価しました」としています(「公有水面埋立承認願書添付図書-06環境保全に関し講じる措置を記載した図書」6-16-283頁)。この環境保全図書(変更前)が提出された時点では、沖縄防衛局が実施した環境影響評価調査によって、沖縄島周辺海域にジュゴンA、B、Cの3頭が生息することが確認されていました。しかしその後、沖縄のジュゴンを取り巻く状況は激変し、個体Aは2018年9月を最後に行方が知れず、個体Bは2019年3月に今帰仁村の防波堤で死んでいるのが見つかり、個体Cは2015年6月から行方不明です。沖縄防衛局が実施した環境影響評価調査とそれに基づく環境保全図書(変更前)が適切なものであれば、このような事態は起きなかったはずではないでしょうか。
にもかかわらず沖縄防衛局は、今度また「普天間飛行場代替施設建設事業公有水面埋立変更承認申請書」の添付図書-4環境保全に関し講じる措置を記載した図書の2.14ジュゴンで変更計画が及ぼす影響(工事に伴う作業船の稼働により発生する水中音がジュゴンに及ぼす影響)について評価を行いましたが、今回の変更に伴う評価は予測対象時期と水中音の発生源について新たなデータで差し替えているものの変更前の評価の手順をそのまま上書きしたに過ぎません。この間、沖縄島周辺海域に生息するジュゴン達に起きた異変を不問に付する評価方法には全く同意できません。
ジュゴンは生物多様性豊かな沖縄の海を象徴するかけがえのない生き物です。そして個体AとCの行方不明については、辺野古・大浦湾での工事作業が追い払った可能性がゼロではありません。従って沖縄防衛局が行うべきことは、まず工事を中止し、個体AとCの探索に全力を尽くすことです。環境省が八重山の海でドローンや環境DNAを用いて調査しているのですから、沖縄防衛局もこれらの手法を加えて探索を行うことが求められます。その上でこれまでの工事作業が個体A、Cにいかなる影響を与えたのか、追い出した可能性はないのかの検証がなされるべきです。変更計画が及ぼす影響の予測は、これまでの工事作業が個体A、Cを追い出してはいないということを沖縄県が十分に納得しうる形で論証したうえで取り掛かるべきです。
 ところで工事作業が個体A、Cを追い出した可能性がないのかについては、沖縄県と沖縄防衛局との間で既にやり取りがなされています。令和元年(2019年)8月6日付けで出された沖縄県知事による環境保全措置要求の7.ジュゴンの項で、沖縄県が個体A、Cが行方不明になったことに工事が関係しているのではないかと質したのに対し、沖縄防衛局は次のように回答しています(出所:第22回環境監視等委員会 資料2:沖縄県知事による環境保全措置要求について)。
(個体Aについて)工事による水中音が最も大きくなった平成29年(2017年)11月から平成30年(2018年)8 月には個体Aがその生息域である嘉陽沖で確認されていた一方、個体Aが嘉陽周辺海域の海草藻場を利用しなくなったと考えられる平成30年(2018年)10月18日から12月5日までの間の作業による水中音は、平成29年(2017年)11月から平成30年(2018年)8月の水中音を下回ると考えられることからも、工事による水中音が個体Aの生息域に影響を与えたとは考えていません。
(個体Cについて)個体Cは、古宇利島沖から嘉陽沖までの間を行き来するなど、生息域は非常に広範囲であり、事業実施区域は主たる生息域とはいえないと考えられること、個体Cが最後に確認されたのが工事前の平成27年(2015年)6月で、その場所が事業実施区域から遠く離れた古宇利島沖であったことから、工事が個体Cの生息域に影響を及ぼしたとは考えていません。
 まず、個体Cについての回答が説得力に欠けることを指摘しておかなければなりません。個体Cが最後に確認されたのは確かに2015年6月27日の古宇利島沖ですが、その前年の2014年には頻繁に嘉陽沖で観察され、5月から7月にかけて大浦湾西側の美謝川沖で発見された110本ものジュゴンの食痕は個体Cが残したものとみられています(琉球新報2014年7月10日)。個体Cが最後に嘉陽沖で観察されたのは同年9月1日で9月9日には古宇利島沖に移動し、以後、古宇利島沖で観察されていました。そして2015年6月24日に確認されたのを最後に、以後、行方不明となったのです。ここで問題なのは、2014年8月14日に大浦湾にフロートが設置されたことです。沖縄防衛局は、工事による作業音がジュゴンに与える影響のみを議論していますが、フロートの設置を大きな契機とする大浦湾での工事の進行が個体Cに大浦湾を忌避させた可能性について全く論じていないのは納得しがたいと言わねばなりません。個体Aの挙動についても、工事による水中音の影響のみを論じているのは妥当とは思えません。
 あと一点、工事を中止して実施すべきものに、大浦湾のK-4地点で観測されているジュゴンの鳴音ではないかと思われるものの原因解明があります。K-4地点では2020年2月に3日、計19回、3月に5日(うち2日は工事時間帯)、計23回、そして4月に7日(うち2日は工事時間帯)、計74回、5月に10日、計70回、ジュゴンと思われる鳴音があったことを沖縄防衛局が環境監視等委員会に報告しています。ジュゴンの姿や食痕などは確認されておらず、一定の風向きの際に鳴音が確認されていることなどから、沖縄防衛局はジュゴン以外の生物や人工物による音の可能性も排除できないとしていますが、工事を中止して解析を進めることが求められます。
 さらにあと一点、この間の沖縄防衛局のジュゴンの保護に関する姿勢には看過しがたいものがあることを指摘しておきます。それは、国際自然保護連合(IUCN)や日本自然保護協会などのジュゴン保護に重要な役割を果たしてきた団体の忠告に全く耳を傾けようとしていないことです。国際自然保護連合(IUCN)は2019年12月10日に南西諸島のジュゴンが「絶滅寸前」「近絶滅種」と評価し、その評価の中で「懸念される主要な場所の一つは米海兵隊の飛行場を大浦湾に移転する計画だ」「海草藻場の喪失とダメージはジュゴンの生息回復に深刻な障害となる可能性がある」と指摘しました。これを受けて日本自然保護協会は、2019年12月11日、日本政府に対して工事の中止、ジュゴンの詳細な調査の実施を求める声明を発表しています。しかし沖縄防衛局はこれらの指摘を無視し、第23回(2020年1月20日開催)~第26回(2020年5月15日開催)の環境監視等委員会の議事録を見ても、自然保護団体によるこれらの指摘を諮った形跡が全くありません。第27回(2020年7月28日開催)の環境監視等委員会では、その議事録を見ますと、6月4日、6月25日の沖縄県からの文書がIUCNの評価について触れているとの報告があったのですが、IUCNの評価自体をどう考えるかについての意見交換は一切なされていません。沖縄防衛局は、ことあるたびに「部外の専門家からなる環境監視等委員会に諮り、その指導助言の下に行っている」と述べ、同委員会を錦の御旗としていますが、これら自然保護団体からの忠告について諮ったこともないということは、同委員会を隠れ蓑として使用しているに過ぎないといっても過言ではないのではないでしょうか。
 最後にあと一点、沖縄防衛局が2013年に提出した環境保全図書(変更前)でジュゴン保護のために講ずるとしていた施策も、工事現場では順守されていないということを指摘しておきます。環境保全図書(変更前)とは補正評価書のことですが、その6章16がジュゴンに関する記述であり、その6-16-254頁で沖縄防衛局は次のように述べています。
(前略)工事用船舶が沖合から施工区域へ航行する際のジュゴンへの影響を回避するために、沖縄島沿岸を航行する場合は、岸から10km以上離れて航行し、沖合から施工区域に接近する場合は、図-6.16.2.1.21に示したように、大浦湾西側沖から施工区域に向かって直線的に進入する航路をとることとします。
 今回の変更に伴い提出された「普天間飛行場代替施設建設事業公有水面埋立変更承認申請書」の添付図書-4環境保全に関し講じる措置を記載した図書の第3章環境保全措置の3.1.9海域生物、海域生態系の項でも次のように述べています。
作業船の航行にあたっては、(中略)沖縄島沿岸を航行する場合は、岸から10㎞以上離れて航行します。
しかし、北上田毅氏の「チョイさんの沖縄日記」(2020年7月21日)が「辺野古への土砂運搬船は法令に違反し、自動船舶識別装置を切断して航行している!ジュゴン保護のために定められた「海岸から10㎞以上離れて航行する」に違反しているのではないか?」という見出しの下で報じているところによれば、2020年7月6日に2隻、7月7日に2隻、7月8日に1隻、7月14日に1隻、7月16日に1隻、7月18日に1隻が、辺戸岬沖を西から東に向けて回る際に自動船舶識別装置(AIS)を切断して航行していることが判明しています。10km以内を航行していることを隠すための意図的な切断としか考えられません。第26回(2020年5月15日開催)環境監視等委員会の議事録の2頁には、前回委員会等における指導・助言事項とその対応方針についての説明において、沖縄防衛局の事務局が「工事用船舶等によるジュゴンとの衝突の危険を最大限避ける努力を引き続き行うこととの指導・助言については、引き続き、船舶の航行に関する環境保全措置を遵守するように注意喚起をしていきます」と述べたことが記されています。この発言の直後の違反であり、沖縄防衛局が講じているとする環境保全措置の実効性は大いに疑わしいと言わねばなりません。
 以上に見ましたように、変更計画における影響予測(水中音:ジュゴン等への影響)が不適切であることは明らかです。他にも指摘した不適切な環境影響予測の諸問題と相俟って、「変更計画においては環境保全への配慮が適切になされている」という主張を納得しがたいものとしています。

意見その3:埋め立て土砂の採取について

 沖縄防衛局が2013年に提出した環境保全図書(変更前)においても、また同局が今回提出した「普天間飛行場代替施設建設事業公有水面埋立変更承認申請書」の添付図書-4環境保全に関し講じる措置を記載した図書においても、決定的に評価対象から漏れているのが埋め立て土砂(海砂を含む)の採取がもたらす環境影響です(埋立土砂発生区域(辺野古ダム周辺)での同局自身による土砂採取に関する環境影響を除く)。
辺野古新基地建設には、2062万立方メートル(防衛省の有識者会議の技術検討会では地盤改良に伴い2339万立方メートルを必要とするという見通しが示されています。なおこの数値には、辺野古ダム周辺から採取する191万立方メートルの山土は含まれていません)の埋め立て総土量が必要とされており、県内・県外からの土砂調達に伴う環境影響を適切に評価することが重要ですが、変更前も変更後も、沖縄防衛局はこの環境影響評価を全く行っていません(上述のように、埋立土砂発生区域(辺野古ダム周辺)での同局自身による土砂採取に関する環境影響評価を除く)。
沖縄県環境影響評価条例および同条例施行規則によれば、土石の採取(陸域部分で行われるものに限る)の事業は面積が10ヘクタール以上のもの(事業の全部又は一部が特別配慮地域内において行われるものについては5ヘクタール以上のもの)については同条例に基づく環境影響評価が求められます。しかし沖縄防衛局は、ここで求められる環境影響評価は、土石を採取し、事業者である沖縄防衛局に納入する各土石採取業者が適切に行うべきことであるとして、一切タッチしてきませんでした。
さて沖縄防衛局の変更前の計画では埋立土砂等として海砂を利用する計画でしたが、「普天間飛行場代替施設建設事業公有水面埋立変更承認申請書」では、その添付図書-1設計概要説明書の3頁で、「変更前の埋立承認で埋立土砂等として用いることとしていた海砂は、他の埋立材にて必要な量の調達が可能であるため、埋立材としては用いないこととした」としています。変更後の計画では、海砂は専ら地盤改良工事、ケーソン護岸の中詰工のために使用されることとなったのです。
辺野古新基地建設での海砂採取計画は沖縄の沿岸環境に及ぼす影響が大きく、私たち沖縄環境ネットワークが深く憂慮していたものでした。海砂については、平成21年(2009年)5月27日に糸数慶子参議院議員(当時)が江田五月参議院議長(当時)宛てに「海砂採取に関する質問主意書」を提出し、「海砂採取は環境影響評価法に基づく環境影響評価の対象から外されているが、海砂採取による環境への影響について政府の見解を示されたいと糺しました。これに対し内閣総理大臣麻生太郎(当時)の名のもとに平成21年(2009年)6月5日に答弁書が出されていますが、その答弁は「海砂採取による環境への影響は、海砂の採取場所、採取量、採取方法等に応じて異なると考えられることから、お尋ねに一概にお答えすることは困難である」という典型的なはぐらかし答弁でした。
変更計画で使用が予定されている海砂は約386万立方メートルで、これは沖縄の年間海砂採取量の2~3年分にもなります。このまま採取されれば沖縄周辺の沿岸部では深刻な環境破壊が生じます。沖縄では、無秩序な海砂採取で砂浜が痩せ細ることはすでに経験済みであり、観光立県沖縄の魅力の源泉の一つである砂浜の保全のためにも、海砂採取は辺野古新基地建設に伴う環境影響評価の不可欠の対象でしたが、影響評価はなされませんでした。海砂採取が、国においても、また県においても、環境影響評価の対象外となっているのは、日本の環境アセス体制の後進性を示すものであり、この法的な欠陥に乗じて沖縄防衛局が海砂問題を無視してきたのは許されないことです。
現在、瀬戸内海に面する岡山、広島、徳島、香川、愛媛、そして熊本では、海砂採取は全面禁止され、福岡、佐賀、長崎、鹿児島、山口、高知の各県では、海砂採取の総量規制が定められています。西日本の各県で総量規制がないのは、大分と沖縄だけです(大分では実際の採取量はわずかです)。沖縄平和市民連絡会は、2019年3月、9月の沖縄県議会に海砂採取の総量規制を求める陳情を提出し県とも交渉を続けてきており、沖縄県の行政においても、辺野古新基地建設によって海砂採取が飛躍的に増える事態がもたらす環境破壊についての認識は高く、海砂採取の総量規制の導入が近々なされるものと思われます。すでに沖縄県は、2020年7月1日から、海砂を採取する業者に対し、採取量と場所を証明する資料の提出を求める措置を講じています。
ところで前述の麻生答弁書は、陸域部分で行われる土石の採取について、「事業者である沖縄防衛局自らが行う埋立土砂の採取については、辺野古新基地建設事業に係る環境影響評価の対象としているが、それ以外の埋立土砂の調達については、環境影響評価法第二条第一項に規定する「特定の目的のために行われる一連の土地の形状の変更」には当たらないことから、環境影響評価の対象とはしていないところである。いずれにせよ、防衛省としては、本件事業における埋立土砂の購入に当たっては、埋立土砂の供給元が土砂の採取による環境への影響に配慮していることを確認するなど、埋立土砂の調達に伴う環境への著しい影響がないよう、慎重に判断することとしている」と述べています。しかし、現在、北部地域で行われている土砂採取は沖縄の自然と景観を著しく損なうものであり、また岩ズリとして辺野古沖の②地区及び②-1地区に搬入され埋め立てに使用されている土砂は、赤土含有量が多く、埋め立てに適切な土砂とは言い難いものです。こうした現状を踏まえると、埋立土砂の供給元に対する厳しい管理・監督が改めて求められますが、今回提出された「普天間飛行場代替施設建設事業公有水面埋立変更承認申請書」の添付図書-4環境保全に関し講じる措置を記載した図書にはそのような発想が全く見られません。 
さて、当初の埋立承認願書では、沖縄防衛局は辺野古の埋立土砂を北部地域(本部・国頭)で採取するとしていました。ところが今回の「普天間飛行場代替施設建設事業公有水面埋立変更承認申請書」の添付図書-6埋埋立てに用いる土砂等の採取場所及び採取量を記載した図書の図4.2埋立土砂等の採取場所及び搬入経路図(2)【変更後】に示されるように、今回の変更申請では北部地域だけでなく、うるま市の宮城島や、糸満・八重瀬の南部地域、そして宮古島・石垣島・南大東島等からも採取するとしています。土砂採取計画の大幅変更です。その背景には、第一に県外での土砂採取が「公有水面埋立事業における埋立用材に係る外来生物の侵入防止に関する条例」(土砂条例)に基づく外来生物侵入チェックによって必ずしも円滑に進行しないと思われることから、このリスクをできるだけ回避しようとしていることがあります。そして第二には、沖縄防衛局がこれまで北部地域で行ってきた土砂採取業者からの購入の際の単価が法外に高いもの(赤土混じりの岩ズリが1立方メートル当たり5000円以上というあり得ない価格)であったことから、県内の他地域の土砂採取業者が辺野古新基地建設で生まれたこの土砂利権に群がってきたためと思われます。「自分たちにも参入させろ」という圧力が土砂採取業者から陰に陽に沖縄防衛局にかけられているはずだというのは、今や沖縄県民の常識です。総工費9700億円(国の推計額)の工事費のうち、1700億円が警備費という、通常の公共工事ではあり得ない政府のタガの外れた予算執行計画が、このような異常事態を生み出したのです。
沖縄防衛局が法外な価格で岩ズリを購入していることは、沖縄平和市民連絡会の北上田毅さんが情報公開で入手した資料で明らかになっています。沖縄防衛局は2017年11月、埋立工事の特記仕様書に単価を1立方メートル当たり5370円と記載し、1社(琉球セメント)と契約しています。契約に先立ち価格調査を行うのが通例で、単価の提示を13社に依頼しましたが、回答したのは1社のみで、その会社が受注し、同社が提示した単価は特記仕様書に記載されたのと同じ5370円でした。これは市場価格の1.5倍、2014年に辺野古の護岸建設に用いた時の岩ズリ単価の3倍でした。原則3社以上から見積もりを収集するのが防衛省の内規で、このやり方は明らかに内規に違反したものでした。
北部地域(本部・国頭)での土砂採取も満足に管理監督出来ていなかった防衛局が、今や、沖縄の全域から辺野古のための埋立土砂採取を行おうとしているのです。繰り返しますがこれらの土砂採取の際の環境配慮は採取にあたる各事業者の責務であるとしつつ、彼らによる適正な環境配慮をいかにして実現するかの具体策を沖縄防衛局は全く示しておりません。糸満・八重瀬の南部地域は、戦争当時、多くの県民が亡くなった地域であり、そこの土砂を戦争のための基地建設に使用することは県民感情としても許しがたいものです。
さてここで、防衛省が設置した環境監視等委員会が埋め立て土砂の採取がもたらす環境影響について適切な検討及び勧告を行っているか否かを調査しましたので、その結果について報告します。第20回(2019年6月3日開催)~第27回(2020年7月28日開催)の計8回の委員会議事録を検討しましたが、埋立土砂発生区域(辺野古ダム周辺)での沖縄防衛局自身による土砂採取に関する環境影響については若干の意見交換がありましたが、それを除く外部事業者が行う陸域での土砂採取がもたらす環境影響についての議論は全く見当たりませんでした。また海砂の採取につきましては、一回だけですが第23回(2020年1月20日開催)の環境監視等委員会において、事務局が次のように説明しています。なお事務局からのこの説明に対して、委員の側からの意見・質問はありませんでした。
(事務局)「購入砂、海砂」ですが、主に地盤改良材として使用しますが、調達先については、県内調達可能量約560万立方メートル/年に対して年間最大必要量約130万立方メートル/年であり、県内でも調達が可能です。調達時の環境影響についてですが、先般終了しました那覇空港の滑走路増設事業における海砂の使用実績が、月最大20万立方メートル程度、 年最大140万立方メートル程度であり、本事業の必要量はこれを下回っていることに加え、沖縄県が定めている海砂利採取要綱に規定されている採取面積や掘削深度を採取業者が遵守しているかを確認・徹底することとしています。したがって、本事業で使用する海砂の採取によって那覇空港の事業を超えて環境への影響が生じるということはないと考えています(第23回環境監視等委員会議事録34-35頁)。
ここで納得がいかないのは、先に紹介した内閣総理大臣麻生太郎(当時)による糸数慶子参議院議員(当時)の質問主意書に対する答弁書の中に、「沖縄県における平成15年度から平成19年度までの各年度における海砂の採取総量の実績のうち、最大のものは平成15年度の193万4219立方メートル、最小のものは平成18年度の91万1568立方メートル、平均値は138万4158立方メートルである」という記述があるからです。沖縄防衛局が県内調達可能量を約560万立方メートル/年としているのは、明らかに過大評価であると言わねばならないでしょう。
最後に、沖縄防衛局が埋め立て用土砂の一部を陸路で運ぶ計画を立てていることの問題を指摘しておきます。2013年の当初計画では、石材は陸上搬送を予定していましたが、2017年には方針を転換して海と陸の両方から搬入することとし、沖縄防衛局は「(海上輸送の方が)大気汚染や騒音、振動など環境負荷が軽減される」と方針転換を正当化しました。ところが今回は、工期短縮のため土砂の一部を陸上搬送に切り替えることとしたのです(第3回技術検討会(2019年12月25日)資料38頁、4.2.1工期短縮の項目及び対応策より)。従来の説明に違背する変更であり、認めることはできません。
以上の検討に基づき、埋め立て土砂の採取がもたらす環境影響の沖縄防衛局による評価は、全面的に不適切であると断定します。

意見その4:サンゴの保護について


 サンゴの保護については、沖縄防衛局が2019年4月と9月に沖縄県に対して行った大浦湾に生息している約3万9590群体のサンゴの特別採捕許可申請(移植申請)をめぐるその後の国側の一連の対応が、手続きとして妥当なものでは全くないということをまず指摘しておかなければなりません。
そもそも2019年8月7日、沖縄県は沖縄防衛局の審査請求を受けて承認撤回の効力を取り消した国交相裁決の取り消しを求めて、那覇地裁に国を訴えました。いわゆる抗告訴訟です。この裁判の結論が確定するまでは、沖縄県が行った埋立承認撤回は活きており、それまでは特別採捕許可ができないというのが沖縄県の理解だからです。
それだけではありません。沖縄防衛局は大浦湾の軟弱地盤問題に対処するため2020年4月21日に設計概要変更申請を行いましたが、この申請が沖縄県知事によって承認されて初めて採捕・移植が可能となることは子供でも分かることです。知事が承認しない可能性が否定できない中で採捕・移植を行い、結果的に不承認となったならば元の状態に戻すことはできないからです。
にもかかわらず国は、この間ゴリ押しを続けてきました。国と地方を対等とする地方自治の理念の無視、国による地方の恫喝であると言わねばなりません。まず農水相が2020年1月31日付けで沖縄防衛局が申請しているサンゴ類の移植を許可するように県に勧告しました。県がこれに従わなかったため、2月28日、農水相は地方自治法に基づき県に許可するように是正を指示したのです。3月6日、県は農水相の是正指示の取り消しを要求し、3月30日には国地方係争処理委員会に審査を申し立てました。国地方係争処理委員会は、審理を進めましたが、6月19日、農水相の県に対する是正指示は違法でないと判断し、県の主張を退けたのです。設計概要の変更申請が承認される前にサンゴの特別採捕許可(移植許可)を与えることが、取り返しのつかない環境破壊をもたらすことを理解しない「木を見て森を見ず」の判断であったと言わざるを得ません。そこで県は、7月22日、国地方係争処理委員会の決定に不服であるとして、農水相の是正指示の取り消しを要求して福岡高裁那覇支部に国を訴えたのです。
この訴訟は、巷間、辺野古サンゴ訴訟と呼ばれていますが、サンゴ移植の必要性について県は「設計変更が認められなければ移植の必要性もなくなる」とし、他方で農水省は「移植しないと埋め立てでサンゴ類が死滅する」と主張しています。農水省のこの主張は、環境を犠牲にしてでも工事を急ぎたいという国の本音を自白したようなものであり、県民の納得は得られません。設計変更の承認をまず得て、その次に採捕許可申請に進み、その許可を得てから移植を行えば済むことです。破壊したら二度と戻らない沖縄の貴重な自然に向き合うときには、後日、説明責任を問われたときに困惑することのないよう真摯な姿勢で臨むことが求められます。
さて沖縄防衛局は、今回提出した「普天間飛行場代替施設建設事業公有水面埋立変更承認申請書」の添付図書-4環境保全に関し講じる措置を記載した図書の2.12サンゴ類を見ますと、変更後の工事の実施に伴うサンゴ類への影響と、変更後の施設等の存在及び供用に伴うサンゴ類への影響について評価を行い、「サンゴ類への影響は、変更前と同程度又はそれ以下と予測されます」としています(2-12-36頁、2-12-84頁)。しかし、工事の実施がもたらす水の濁りがサンゴ類に及ぼす影響については、先に意見その1:先行埋立による水の濁りについてで述べたように、③-5の先行埋立時の水の濁りのシミュレーション結果の取り扱いに重大な疑問があることを指摘しておかなければなりません。
また、サンゴ移植の際の生存率は、100%ではないことを改めて指摘しておきたいと思います。2020年5月12日の衆議院農林水産委員会で沖縄県選出の屋良朝博衆議院議員がサンゴ移植の生存率について、「沖縄で移植あるいは移設されたサンゴ群体は30万株を超えるが、多くのサンゴの植え込み4年後の生残率は20%以下だ」と指摘しました。これは、沖縄で長年サンゴの研究に携わってきた大森信東京水産大学名誉教授の言葉として、水産庁が2019年3月にまとめた「改訂 有性生殖によるサンゴ増殖の手引き」の前書きに記されたものを引用したものです。大森名誉教授は、この分野の第一人者であり、その発言は参考とするに値します。移植(サンゴから断片の一部を採取して植え付ける)・移設(丸ごと移す)の成功率は、サンゴの大小、種類、植える場所、植え方などによって異なり、移植技術はまだ確立されたものとはなっていません。そのことは、沖縄防衛局がすでに実施した移植で実証されています。防衛局は、辺野古沖に生息していた絶滅危惧種のオキナワハマサンゴ9群体を2018年7月・8月に移植し、以後2年にわたって生息状況のモニタリングを行い、その結果を第16回~第27回環境監視等委員会に報告してきました。その結果は、3群体が生育良好、3群体が生存部縮小、2群体が死亡、1群体が消失(原因は2019年の台風5号の接近による高波浪とされている)というものでした。サンゴの移植を環境影響緩和(ミティゲーション)の手段として安易に選択することは慎むべきだと言えましょう。

意見その5:埋立地の用途が名護市の都市計画に違背する点について


公有水面埋立法第4条第1項第3号「埋立地ノ用途ガ土地利用又ハ環境保全ニ関スル国又ハ地方公共団体(港務局ヲ含ム)ノ法律ニ基ク計画ニ違背セザルコト」を考察するために下記の小見出しの順に記します。
1・名護市の都市計画での豊原周辺の位置付け
2・方法書への知事意見と事業者の見解をめぐって
3・制限表面より高い建物の存在を巡る報道と政府の国会答弁など
4・公有水面埋立法第4条第1項第3号に違背している

1・名護市の都市計画での豊原周辺の位置付け

名護市は都市計画法に基づき、方法書への知事意見の前年、平成18年(2006年)8月に「都市計画マスタープラン」を出しています。その100頁で豊原区を、「水とみどりと産業文化を育む丘のまち とよはら」を基本方針(目指すべき方向性)として①情報通信・金融関連産業拠点の形成、②自然環境との共生によるまちづくり、③新たなコミュニティを構築するまちづくり、④住民管理による持続的、段階的なまちづくり、の四点を記しています。
公有水面埋立法第4条第1項第3号で定める「埋立地ノ用途」は、米海兵隊のためのV字型の軍事空港です。この軍事空港の存在と運用は、名護市が豊原区の都市計画で掲げた四点の基本方針に違背しないだろうか。この点を検証します。

2・方法書への知事意見と事業者の見解をめぐって

平成19年(2007年)12月21日、沖縄県(当時・仲井眞弘多知事)は、環境影響評価方法書に対する知事意見を出しています。
この知事意見の「記の(6)」は次のように記しています。「環境影響評価の項目の選定に当たっては、名護市及び宜野座村における土地利用計画に関する情報等も含めて、より詳細に地域特性を把握し、その結果から予測において勘案すべき将来の環境状況を推定するとともに、把握した地域特性の内容及び推定した将来の環境の状況について明らかにすること。」
この意見に沖縄防衛局は平成21年(2009年)4月に出した「準備書」4-34頁と4-59頁で次のように事業者の見解を示しています。
「土地利用計画に関する情報等を含めて、より詳細に地域特性を把握し、その結果から予測において勘案すべき将来の環境状況を推定するよう努め、把握した地域特性の内容及び推定した将来の環境状況について、できる限り明らかにし、準備書に記載しました。」とあります。それで、準備書の第5章「環境影響評価の項目並びに調査、予測及び評価の手法」全134頁を開きました。先に示した名護市の「都市計画マスタープラン」の引用はなく、「土地利用計画に関する情報等」は一行も記載はありません。
平成25年(2013年)6月28日に沖縄防衛局が沖縄県に提出した「普天間飛行場代替施設建設事業埋立願書」の添付図書「環境保全に関し講じる措置を記載した図書(この図書は環境アセスの補正後の評価書にあたる)」を開きました。第4章「方法書、準備書に対する意見、及び事業者の見解」の4-2-3頁、4-2-32頁には「準備書」の記述と同様に、「土地利用計画に関する情報等」について知事意見があったこと、その点についてできる限り明らかにし、「準備書」に記載したと述べられています。しかしこの図書の第5章「環境影響評価の項目並びに調査、予測及び評価の手法」には名護市の「都市計画マスタープラン」の引用はなく、「土地利用計画に関する情報等」は一行も記載はありません。第11章「評価書作成に当たっての準備書記載事項との相違の概要」でも触れられていません。
つまり、方法書に対する知事意見に対し、「把握した地域特性の内容及び推定した将来の環境状況について、できる限り明らかにし、準備書に記載しました。」との準備書の誤った記述が今日まで修正されていないのです。

3・制限表面より高い建物の存在を巡る報道と政府の国会答弁など

2018年4月9日に沖縄タイムスは「辺野古新基地周辺、高さ制限超過、沖縄高専が危険空間」との見出しで、米国防総省の飛行場の「統一施設基準」が定める高さ制限を沖縄高専の主要な校舎が超えていることを報じました。(この統一施設基準はUFC 3-260-01 で検索できます。)
この基準では滑走路の中心から2,286mの範囲に、滑走路の表面から高さ45.72mの以上の構造物があってはならないことになっています。辺野古新基地の滑走路の高さが海抜8.8mとされているので、海抜54.52m以上の構造物は存在してはいけないのです。概念図を示します。
概念図

 報道の翌日4月10日、参議院外交防衛委員会で、伊波洋一議員が沖縄タイムスの紙面を配布しての質問に対し、小野寺五典防衛大臣は次のように答弁しています。「沖縄工業高等専門学校については、現在までの米軍との調整結果により、当該高さ制限の対象とはならず、米軍飛行場設置基準違反との御指摘には当たりません。」と。
 赤嶺政賢議員は、同年5月10日の衆議院安全保障委員会での質疑の後、5月17日に「辺野古新基地建設に伴う周辺建造物等の高さ制限に関する質問主意書」を政府に提出しています。
この質問主意書の第三項「建造物等の所有者や関係自治体をはじめとする利害関係者に対し、高さ制限に関する説明や依頼を行った期日と具体的内容を示されたい。」への答弁書(同年5月25日)から説明期日などを書き写します。
・平成27年(2015年)6月11日にNTTドコモ、ソフトバンク、沖縄セルラーに対して、高さ制限の説明と通信鉄塔の移設等の依頼、
・同年8月12日に送電線路の移設及び既設鉄塔の撤去を沖縄電力に依頼、
・平成30年(2018年)4月11日に沖縄高専と地元自治会等に対して、
・同年4月12日に名護市に対して、
・同年4月16日に沖縄県に対して、それぞれ高さ制限について説明を行った。
 平成27年(2015年)6月と8月に沖縄防衛局は通信会社や沖縄電力に鉄塔などの移設を依頼し、沖縄高専と地元自治会等、名護市、沖縄県にはその3年後の平成30年(2018年)、沖縄タイムスの報道後に説明をしていることが分かります。

4・公有水面埋立法第4条第1項第3号に違背している

平成21年(2009年)4月に沖縄防衛局が出した「準備書」5-124頁、表-5.3.25(2)調査及び予測の手法(人と自然との触れ合いの活動の場)に見落としてはいけない記述があります。予測の手法欄、「2)人々の活動・利用の変化」から最後の3行を書き写します。「また、米軍の制限水域・制限空域、訓練や航空機の飛行に伴う人々の活動・利用への影響についても予測しました。」この制限空域などの予測は米国防総省の飛行場の統一施設基準によったと思われるが、準備書にもその後の評価書にも予測の結果は記されていません。
平成30年(2018年)5月17日の赤嶺政賢議員の質問主意書の5項を引用します。―――政府は、沖縄高専について、「現在までの米側との調整結果により、当該高さ制限の対象とはならない」(2018年4月10日、衆院安全保障委員会での照屋寛徳議員及び参院外交防衛委員会での伊波洋一議員への答弁)との認識を示しているが、具体的にいつ、どのような手段で米側に確認したのか。当該統一施設基準に適用除外に関する規定が置かれていることを根拠に挙げているが、適用除外の要件は何か。要件に合致するかどうかを判断するのは誰か。高さ制限を超える建造物等が現存する下で、誰がどのように安全を確保するのか。―――
この質問への同年5月25日の政府答弁です。―――お尋ねの日米間のやり取りの詳細について明らかにすることは、米国との関係もあり、差し控えたい。また、高さ制限の適用除外については、米海軍航空システム司令部において判断されるものと承知しており、沖縄高専の建造物については、航空機の航行の障害となることはなく、安全面に問題はないと認識していることから、高さ制限の適用除外とされているところである。―――
 ここでも日本政府の国民の安全を守る視点は読み取れません。
オール沖縄会議は、2018年4月の沖縄タイムスの報道、そして国会質疑の後、同年6月9日に、名護市の測量事務所に依頼して辺野古・豊原区一帯の水準測量を行い、6月26日に記者会見を行っています。滑走路中心からの2,286mの範囲が明確でなく特定できないが、と断りつつ、高さ制限を超える主な建造物として次のようにあげています。・住宅67戸・マンション4戸・公共建築(豊原地区会館、久辺郵便局、久辺中学校、久辺小学校)などです。
ここで平成18年(2006年)8月の都市計画法の下で作られた「都市計画マスタープラン」の100頁で豊原区を「水とみどりと産業文化を育む丘のまち とよはら」と位置付けたうえでの基本方針を再掲します。
①情報通信・金融関連産業拠点の形成、
②自然環境との共生によるまちづくり、
③新たなコミュニティを構築するまちづくり、
④住民管理による持続的、段階的なまちづくり、の四点を記しています。
埋立地の用途である米軍飛行場が、これらの基本方針に違背することは明白です。
「高さ制限の適用除外とされている」と日米が合意したとしても、地域住民は危険にさらされたままです。埋立承認願書の変更申請で、この点についての解決策が示されているか注目して申請書を読みました。しかし、何も示されていません。従って、今回の「普天間飛行場代替施設建設事業公有水面埋立変更承認申請書」を承認すべきではありません。2013年12月の埋立承認を撤回すべき案件だと考えます。

結 論

以上、(1)先行埋立による水の濁りについて、(2)ジュゴンの保護について、(3)埋め立て土砂の採取について、(4)サンゴの保護について、(5)埋立地の用途が名護市の都市計画に違背する点についての5点にわたって検討を進めてきましたが、いずれの点においても沖縄防衛局が行った変更計画における影響予測は適切なものとは言い難いと言わざるを得ません。
従いまして沖縄県知事におかれましては、公有水面埋立法第13条ノ2(出願事項の変更)第1項第2号の規定に基づき、同法第4条第1項の規定を準用し、第4条第1項第2号の「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」及び第4条第1項第3号の「埋立地ノ用途ガ土地利用又ハ環境保全ニ関スル国又ハ地方公共団体ノ法律ニ基ク計画ニ違背セザルコト」という条件を満たしていないとして、第4条第1項「都道府県知事ハ埋立ノ免許ノ出願左ノ各号ニ適合スト認ムル場合ヲ除クノ外埋立ノ免許ヲ為スコトヲ得ズ」に基づき、設計概要の変更を認めないとの処分を行って頂くようお願い申し上げます。



Posted by 沖縄環境ネットワーク at 15:36│Comments(0)
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